ふぅ～、いい風呂だった。
さっぱりしたぁ～。
どうしたの？
真っ青な顔して。
気持ち悪い？
どこか痛い？
そういうわけじゃないんだ。
ん？
パソコンの画面？
何？
SNS見てたの？
ぁっ、これ君が行きたがってたイベントだよね。
…中止が正式に発表されたんだ。
仕方ないんじゃない？
このご時世だもん。
今、いろんなイベントが中止発表してるじゃん。
俺だって行きたかったイベント中止になったしさ。
他の人達も同じだよ。
イベントだったり、コンサートだったり…。
不測の事態なんだもん。
こればっかりは仕方ないよ。
払い戻しの方法は後日発表か…。
払い戻しされるならいいじゃん。
ちゃんとお金返ってくるんだから。
ちょ、ちょっと！
なんで泣くの？
お金の問題じゃないって？
まぁ、君がこのイベントを楽しみにしてたのは知ってるよ。
半年前からホテル予約したり、年明けてからはイベントに向けての準備を始めたの見てたから。
泣く程のことなの？
（彼女が泣きながら理由を説明する）
年に1回のイベントだからこそ、楽しみだったんだ…。
そこまで君がこのイベントに懸けてたとは知らなかったよ。
ごめんね。
おいで。
ギューしてあげる。
（彼女を抱きしめる）ギュー
こんなになってる君を見るのは初めてだから、正直俺どうしていいか分かんない。
君を抱きしめるしかできなくてごめんね。
思いっきり泣いていいよ。
辛いよね。
俺の服、涙で濡れちゃうとか考えなくていいから。
着替えればいいだけの話だからね。
泣きたい時に泣くのが一番だよ。
もしかして、君が毎月コツコツ貯金してるのって、このイベントのためだったりする？
…そうなんだ。
コツコツすることが苦手な君がちゃんと毎月貯金してるの、不思議だったんだ。
好きなことに関しては辛いことでもがんばれちゃうよね。
俺も、イベント前なら辛い仕事とか入ってもがんばれるから、その気持ち少し分かる。
それが突然なくなるんだもんね。
虚無感というか、喪失感というか、心にぽっかり穴が開いたような感じだよね。
どうしていいのか分からないよね。
俺の方は延期の可能性も示唆されてたけど、君の方は延期とかそういう可能性は……ないか…。
『中止』ってはっきり明記されてたもんな…。
君のその様子だと、『このためだけに一年間生きてきた！！』って感じだよね。
その意気込みがすごいなぁ。
尊敬しちゃう。
馬鹿にしてないよ。
本当に尊敬してるの。
俺ってそこまで熱をあげられるものってないからさ…。
割と淡白な性格じゃん。
今回の中止に関しても『仕方ないか』くらいで割とすんなり受け入れちゃってたわけ。
それが、君ときたら、パソコンの前で真っ青な顔になって呆然としてるでしょ？
最初その顔を見た時、『俺が風呂に入ってる間に何があった！？』って思ったんだ。
理由を聞けば、俺と同じようにイベントの中止に絶望してるって言うじゃん。
『なんだ。そんなことか』って思ったんだよ。
世間が騒いでる事情が理由での中止なんだし、君が参加するはずのイベントってかなり多くの人が来場するし、その中から感染者が出たらパンデミックまっしぐらじゃん。
『主催者側も来場者を守るためには中止せざるを得ない状況なの、ちょっと考えれば分かるじゃん』って思ったんだ。
でも、君は泣いて悲しんだ。
お金じゃないって泣いた。
最初、全然意味が分からなかった。
『泣くほどのことなのか？』って。
『今年がダメでも、来年開催されるんだろうし、今年使うはずだったお金は来年に積み立てたと思えばいいんじゃん。
チケットの払い戻しされるみたいだから、お金の心配もないじゃん』って思ったんだ。
だけど、俺の方こそ、ちょっと考えれば君が泣いてる理由も理解できたはずなんだ。
一年かけて、君は苦手なことをがんばってきた。
心からこのイベントを楽しみにしてた。
君のイベントにかける情熱は本物なんだって。
だから、尊敬してるの。
俺には真似できないもん。
少し落ち着いた？
ほら、ティッシュ。
涙とか鼻、拭いて。
立ち直るまでまだまだ時間はかかるだろうけど、今は俺が慰めてあげる。
少しでも君の心の傷が癒えるように。
きっと大丈夫だよ。
神様は見てるから。
いつかこの悲しみがたくさんの喜びに変わる日が来るよ。
きっと来る。
だから、その日のために、いつもの元気な君に戻ってなくちゃね。