幼馴染として最後のバレンタイン

(車に乗っている両親に向かって)行ってらっしゃい。
土産、期待して待ってる。

(車が発車して遠のく)

…おはよ。

ん?
あぁ…今の?

父さんと母さんの2人きりで旅行。
1泊2日でな。

俺は気を利かせて留守番。
「たまには夫婦水入らずでのんびりしてくれば?」って。

俺って、優しい息子だからさ。

……その冷めた目、やめてくんない?
普通に傷つくわ…。

今日の晩ご飯?

まだ決めてないけど、適当に食べるつもり。

…お前の家で晩ご飯食べるの?
おばさんの迷惑になんない?

んー、どうしよっかなぁ?

(小声で)…このあと次第なんだよな…。

いや?
何も言ってない。

お前の家で食べるのは、ちょっと考えさせて。
帰る時間にもよるし…。

それよりも、お前に会ったら渡したいものがあったんだよ。

……ん。やる。

そ。
バレンタインチョコ。
いわゆる、逆チョコってヤツ。

バレンタインだからって女子だけしかチョコを配っちゃいけないわけじゃないじゃん?
貰う側になってドキドキすんのもアリだろ。

はいはい…。
俺が相手じゃドキドキの(欠片かけら)もないですか…。

だったら、今すぐ渡したチョコ返せ。
俺が自分で食べる。
せっかくお前が食べてみたいって言ってたチョコ買ったってのに…。
文句言うヤツにはやらない。

…ったく。
受け取るなら、最初から黙って受け取っとけよな。

今日の日のためにわざわざ並んで買ってきた。
苦労して買ってきたんだから、間違ってもパクパク食べたりすんなよ?
よーく味わって食べろ?
いいな?

そりゃ、お前の言ったことは全部覚えてるよ。
どんな小さいことでもな。

…お前のことが好きだから…。

バレンタインに、冗談でこんなこと言うかよ。
マジだから言ってんの。

いつからって言われても、ガキの頃からとしか言えない…。
気付いたら、お前しか見てなかったし…。

お前が気付かないのは当たり前。
気付かれないように必死に隠してたから。

…けど、もうどうでもいい。

この間のバレンタインの試食で見せてくれた、大量生産された()った義理チョコ。
あれ見たら、ただの幼馴染でいるのやめたくなった。
「あのチョコがきっかけで誰かに取られるくらいならフラれてもいいから告った方がいい」って、「お前を誰かに取られたくない」って、今までずっと隠してた思いが爆発した。

でも、今すっげービビってんの。
もし、お前にフラレたら、幼馴染の特権もお前も両方失うじゃん?
今更そんなこと考えたら、フラれるのが怖くなって「言わなきゃよかった…」って後悔してる。
とはいえ、言わなきゃお前が誰かに取られるかもだし…。

矛盾しまくってて、マジ笑えるよな。

(力なく笑う)

まだ『冗談…』とか思ってるかもしんないけど、お前のこと本気だから。
地球上の誰よりも…。

返事は今すぐしなくていい。

どうせ1度も俺のこと男として見たことなかったんだろうし、いきなり男として見ろって言われても困るだけなの分かってる。
お前の中で納得できる答えが見つかるまで、ゆっくり時間かけて考えて。

それまでずっと待ってる。