ひょん
voice:ひょん

危機感がない先輩に身をもって危機感を教える理性が限界な後輩

お疲れ様です。
先輩も残業ですか?

珍しいですね。
いつも定時くらいで帰るから、こんな時間まで会社にいることってないじゃないですか。

今日はどうしたんですか?
企画書作りとか?

……取引先からの折り返しの電話待ちですか。

俺、それ1番嫌いです…。
だって、自分の意志でどうにかできるものじゃないでしょ。
子供の頃から待つの苦手で、大人になった今でも待たされるとイライラしてきちゃうんですよ。

ちなみに、どれくらい待ってるんですか?

2時間!?
マジですか…。
先輩、すごすぎ…。
俺、そんなに待てないですもん。
どんなにがんばっても30分が限界…。

俺の残業ですか…?
俺の方は、今日中に仕上げなきゃいけない資料があるんですよ。
明日の会議に使うとかで…。
その会議、俺には全く関係ないんですけどね…。

えっ!?
手伝ってくれるんですか?
ほんとに?
ありがとうございますっ!
すっごく助かります。
電話かかってくるまででいいんで、よろしくお願いします。

【パソコンのキーボードを打つ音】

【会社の電話の着信音】

今の電話、取引先からですか?
やっと帰れますね。
お疲れ様でした。

……あのっ!
先輩って、電車通勤でしたよね?

だったら、あと30分待っててもらえませんか?
駅まで送ります。
外暗いし、この近くで不審者出たって昨日聞いたんで…。

『大丈夫』って、何を(根拠こんきょ)に言ってるんですか?

……『全然女らしくないから』?

たしかに、先輩は普段クールでかっこよくて、男の俺よりもバリバリ仕事こなしてるけど、めちゃくちゃかわいい女性なんです。
不審者が男だったらどうするんですか?
女性の先輩が男に(ちから)(かな)うわけないでしょ。

『そんなことない』って…。

(先輩を抱きしめる)

もし、不審者にこんなことされても、先輩は逃げられるんですか?
逃げられるわけないですよね。
体、固まって動けないのに…。

(つよ)がっちゃって………かわいいなぁ…。

それなら、俺の腕の中から逃げてみてくださいよ。
ちゃんと逃げられたら、俺も納得します。
でも、逃げられなかったら、俺の言うこと聞いてください。
いいですね?

……ほら、逃げられない。

すぐに仕事終わらせます。
駅まで送っていくんで、ちょっとだけ待っててください。
お願いします。

(先輩を解放する)

…怖い思いさせてすみませんでした。
なんかムキになっちゃって…。

でも、先輩も悪いんですよ。
自分では女らしさがないって思ってても、他人から見たらとても魅力的に映ってるかもしれないんですから。
少しは危機感を持ってください。

さっきも言ったけど、少なくとも俺は誰よりもかわいいと思ってます。
先輩のこと…。

その恥ずかしがり方、ずるいですよ…。
かわいすぎます…。

えっ…俺が悪いんですか!?
『かわいい』を(連呼れんこ)しすぎって言われても、ほんとにかわいいと思ったから、かわいいと言っただけで…。

っていうか、あんまりこっち見ないでください。
ニヤけて変な顔してるし、先輩に見られてると思うだけで理性が吹き飛んじゃいそうなんで…。

よしっ!
さっさと仕事終わらせます。
さっきは30分って言ったけど、10分で片付けます。
その(あいだ)に帰る(支度したく)()ませておいてくださいね。

大丈夫です。
もう何もしないですから。

…今日のところはね。