小鳥遊きの
voice:小鳥遊きの

心地よい体温がずっと欲しかった蛇族男子

(バルコニーにやって来る彼)

(独り言で)はぁ……疲れたぁ…。
もう帰っていいかな…?

(彼女が先にいる)

あっ…すみません。
誰かいるとは知らず、でかい(ひと)(ごと)なんか言っちゃって…。

外の空気吸いにきたんですか?

俺もです。
パーティーだかなんだか知らないけど強制的に参加させられて、あまりの息苦しさに逃げるようにここへ…。

貴女もですか!?

ふふ。
俺たち、似た者同士ですね。

(風が吹く)

…寒っ!
今夜は冷えますね…。

まだここにいるなら、風邪ひかないように気を付けてください。
じゃぁ、俺はこれで…。

来たばっかで中に戻りたくないですけど、俺が近くにいると貴女がきっとイヤな気持ちになるから…。

俺、蛇の亜人なんです。
パッと見た感じじゃ分かんないでしょ?

爬虫類系の亜人って人間から見ると気持ち悪いみたいで…。
俺が近くにいるとかなりの割合でイヤな顔されて距離を置かれます。
だから、貴女もイヤなんじゃないのかなと思って…。

ほんとに?
大丈夫なんですか?

…ありがとうございます。
受け入れてもらったの、初めてです。

ん?
『お願い』?

俺にできることなら、何でも。

鱗に触ってみたいんですか?

いいですよ。
貴女になら。

ここんとこにあるんで。
遠慮なく、どうぞ。

ね?
あったでしょ?

鱗の位置や数は、個人差があります。
たとえるなら、人間のほくろと同じような感じです。

(風が吹く)

(耐えてる感じで)…くぅ…マジで風つめた…。

爬虫類だからか、寒さに敏感で、ちょっと油断すると動けなくなることもあったりするんですよね…。

……ん……あれ?
……ヤバ…。

いやぁ……その……体が動かなくなっちゃいました…。

大変申し上げにくいんですけど、中にいる亜人を誰か呼んできてもらってもいいですか?
その辺にいる、誰でもいいので…。

そんな心配そうな顔しないでも大丈夫ですって。
体を温めれば、すぐ動けるようになりますから。

いやいや。
これは貴女のストールでしょ?
風邪ひいたら大変なんで、貴女が使ってください。

えっ……ちょっ……!?

(彼女が抱きついてくる)

あ、あの……これはどういう……?

たしかに寒い時にはお互いの体温で温め合うのが一番ですけど、今の状況を誰かに見られたら、さすがにこれはマズいですって…。

俺が貴女に抱きしめるよう強要したように見えるし、そのせいで貴女にあらぬ噂がたつ可能性があります。
だから、早く離れて…。

……貴女に抱きしめられて、イヤなわけないじゃないですか……。

(ボソッと)嬉しすぎて困るから言ってんのに…。

亜人には運命の相手がいるのは知っていますか?
種族によって、運命の感じ方は様々で、蛇族は温度なんです。
触れた瞬間心地いいと感じる温度があって、貴女の体温は俺にとって最高に心地いい。
ずっとこのままでいたいほどに、愛おしくてたまらない…。

……貴女が好きです。
俺と付き合ってくれませんか?

返事は今じゃなくて構いません。
いつまでも待ちます。

ただ、ちゃんと考えてください。
ずっと先の未来まで…。

一度付き合うと言ってしまったら、逃げようとしても簡単には逃がしてあげられませんからね?
蛇は執念深いので…。

そこんとこ、お忘れなく。