(姉ちゃん、彼を呼ぶ)
ん?何?
姉ちゃん。
(姉ちゃん、「話がある」と言い出す)
…話?
めっっっっちゃ大事な感じ?
…分かった。
ちゃんと聞く。
で、話って?
……『一人暮らしがしたい』…?
ふぅーん。
なんで?
だって、あまりにいきなりすぎるんだもん。
理由のひとつやふたつ聞いてもよくない?
(相槌数回)
そっか…。
自分がダメになりそうだから、か…。
あんまり深刻そうな顔して言うから、『彼氏ができた』とか『生活リズムが違う』とかだと思ったじゃん。
(姉ちゃん、話が終わってその場を離れようとする)
ちょっ!ちょっ!ちょっ!
待ってよ!
まだ話終わってない。
…俺はヤダ。
普通にヤダ。
そんなどうでもいいような理由で姉ちゃんとの今の生活ができなくなるとかあり得ない。
でもまぁ、姉ちゃんが言いたいことは、何となく分かった。
俺に姉ちゃんの世話をあれこれ焼いてほしくないってことなんでしょ?
俺としては、それの何がダメなのか理解できない。
俺が勝手に姉ちゃんの世話を焼いてるだけ。
ただただ甘やかしたい欲が溢れてるだけ。
ガチガチに束縛したりしてるわけじゃないじゃん?
(姉ちゃん、納得しない)
…だとしても、ヤなの?
どうしても、一人暮らしするの?
……じゃぁさ、一人暮らししてるとこ、想像してみて。
その中で後悔しない自信ある?
朝アラーム鳴らしても起きれないからって起こしてもらって、起きたら起きたでアツアツの朝ご飯が出来上がってて…。
『帰りが遅くなる』って連絡したら、一人で帰れるのにわざわざ迎えに来てくれて、家に帰り着いたらお風呂が先でも晩ご飯が先でも大丈夫なように準備してくれてる。
こんなとことんまで甘やかされた生活をしてるくせに、一人暮らし始めたら全部自分でやらなきゃいけないんだよ?
今更できるの?
ほら。
即答できない。
それが答えだよ。
無駄な
いい?
『お嫁の貰い手』?
そんな心配してたの?
もう決まってるよ。
知らないのは、姉ちゃんだけ。
おじさんもおばさんも、俺の父さんも母さんも知ってる。
あのね、姉ちゃんのお嫁の行き先は、俺のとこ。
おじさんとおばさんの許可はもう貰ってる。
あとは、姉ちゃんが『うん』って言ってくれればいいだけ。
薄々気付いてたでしょ?
俺の気持ち。
あえて気付いてないフリしてたの、知ってるからね?
……子供の頃からずっと姉ちゃんが好き。
姉ちゃんの隣にいても恥ずかしくない男になるために、苦手な勉強も家事一般のスキルもがんばって身に付けた。
全部、姉ちゃんのため。
姉ちゃんがいなかったら、今の俺はいない。
…ねぇ、俺を見て。
もういつまでも小さい頃の俺じゃないよ?
姉ちゃんの体をすっぽり抱きしめることができるくらい背伸びて、大人になったよ?
弟としてじゃなくて、一人の男として……俺を見て。
…今の俺は、姉ちゃんの彼氏に……旦那さんになれる?
……ほんとに?
ほんとのほんとに?
嬉しいっ…!
(姉ちゃんを抱きしめる)
これから、もっともっと姉ちゃんに好きになってもらえるように何でもできるかっこいい男になるから、一番近くで見ててね。